月でも眺めてみようかと、一人で宿屋を抜け出してきた。
疲れきってぐっすりと気持ちよさそうに寝ている仲間達を起こさぬよう、
注意して部屋を出たはずだった。
「ジェイド・・・・・・」
「おや、どうしました?」
見晴らしのいい第四石碑の丘にいると、
ダアトからの小道から細身の女性が表れた。
だ。
彼女は寝衣のまま外に出てきたらしく、随分と薄着だった。
ここダアトの夜は冷える。
それに魔物だって出てくる。
「武器も持たずに・・・・・・。まったく貴女という人は・・・・・・」
「ごめん・・・・・・」
それきり会話が続かなくなった。
は隣に肩を並べ、同じように黙って月を見ている。
一体、どうしたのだというのだろうか。
彼女だって馬鹿ではない。
夜、武器も持たずに外へ出るなどという初歩的ミスの恐ろしさを知っているはずだ。
少なくともマルクト軍ではそう訓練を行っている。
だからこそ、がこうしていることが不思議でならない。
それに寒そうな様子は気になる。
「女性が体を冷やしてはいけませんよ」
「心配してくれてるの?」
「それはもちろん」
そう言って彼女の細い体を抱きしめる。
するとはすっぽりと腕の中に収まった。
肩を僅かにびくりと震わせたが、抵抗される様子はない。
ゆっくりと彼女の手が背中に回され、抱き合う形になった。
「今日は大胆ですね」
「――――――ジェイド、あったかい」
「一応人間ですから」
彼女の髪を撫でる。
少しだけくすぐったそうな、
けれど気持ちよさそうな様子が彼女の体から伝わってくる。
この腕の中の女性が、たまらなく愛おしい。
冷え切っていた彼女の体が、徐々に温かくなっていく。
「どうしてここに来たんですか?」
「ふとね、目が覚めたの。そしたらジェイドのベットが空で・・・・・・」
「心配、しましたか?」
「ええ。――――――嫌な夢の後だったから尚更」
抱き合っているのでの顔は見えない。
けれども彼女が少し震えているのが分かった。
「あの夢みたいに、いなくなっちゃったかと思った・・・・・・」
「・・・・・・」
「――――――ふふっ、でもね、こうやってると心臓の音が聞こえるの」
「・・・・・・」
「ここにジェイドがいるんだって、傍にいるんだって、わかる」
「貴女を置いて、どこかへいなくなったりはしませんよ」
「うん。――――――安心した」
いつどこで誰が死ぬかなんて分からない。
もしかしたら明日、仲間の誰かが死ぬかもしれない。
もしかしたら明後日、自分が死ぬかもしれない。
はそう考えたのだろう。
当然だ、こんな時代なのだから。
――――――けれど今、はここにいる。
そして私もここにいる。
お互いの心臓の音がそれを証明してくれている。
「愛していますよ、いつまでも」
「――――――うん」
丘から見える月は、静かにダアトの町を照らしていた。
鼓動は何よりも『生』を証明してくれる
(2006/02/13)