もう何も要らない。
思い返してみれば、救いなど何一つ無かった。
誰かに何かを求めるのには疲れた。
すべてが、不要になった。
認めてしまえばいい、私は要らない存在と。
だから私も、こんな世界は要らないと。
最後に神に祈ったのはいつだっただろうか。
神様は信じる者を救ってくれるはずなのだ。
けれども、神様を信じていた私を救ってくれない。
ということは、神様は私が見えていないのか、それともいないのかのどちらかだろう。
だから祈るのはやめた。
ただ、受け入れることにした。
抗うことやめて、逆らうことをやめて、受け入れることにした。
「ねぇ、ジェイド。この世界は必要かしら?」
「貴女よりは必要かもしれませんねぇ」
「そう言うと思った。じゃあ私は?」
私は卑怯だ。
私がいなくなる理由を彼に求めている。
すべてを彼に押し付けて、いなくなろうとしている。
自らの命を他人に任せてしまうなんて、私は卑怯以外の何者でもない。
痴がましいにも程がある。
「ジェイド」
透けかけた腕を伸ばす。
受け止めて欲しい気持ちと、振り払って欲しい気持ちが半分ずつある。
腕から血が滴った。
鮮やかな赤がぬめりと私の服を侵蝕していく。
――――――さあ、彼はどちらを選ぶ?
「世界が必要とか、世界を救うとか、そういうつもりでいるわけではありませんよ」
「そうでしょうね」
「ただ、自らの生み出した禁忌に後始末をつけたいだけです」
「それで?」
「私は貴女も必要ない」
ほんの僅かな一瞬の後、
「さよなら、」
ぱしんっと腕は払われた。
それでいい。
貴方はそういう人間だ、≪死霊使い≫。
けして本来の目的を忘れたわけでなく、消え逝く人間を引き止めるわけでもなく、突き放す。
なんと貴方らしい。
いっそ清清しいではないか。
「ありがとう、ジェイド・カーティス」
「いえいえ、どういたしまして、・」
そういうと、ジェイドはブーツをカツンと鳴らし、踵を返した。
背中が遠ざかる。
振り向きはしない。
「本当に、ありがとうジェイド」
急速に音素が乖離する。
腕だけでなく、すでに足なんかも見えない。
後悔はしていない。
わけの分からない、音素の乖離で死ぬのではない。(怖いではないか、わけが分からないものは)
彼が必要としないから、彼の言葉によって私は死ぬのだ。
立派な理由が出来たではないか。
愛する男の言葉によって死ぬのだから、とても素敵だ。(それに甘美だ)
音素の乖離が加速する。
もう身体はほとんど消えかかっている。
レプリカの行き着く先などあるのだろうか?
(せめて、そのうちジェイドが来てくれる場所がいいな)
僅かな光の残滓を残して、私は四散した。
いつも貴方を想っています
救いようのない話。
二人の道が違えた、ただそれだけのこと。
(06/06/25)