彼らの死は、誰のせい?





Chapter.1 - Act.18 惨状、再び





「……なっ、マルクト軍!?じゃあやっぱりこれはマルクトの仕業かっ!」



軍港に入った途端、キムラスカ軍人と思われる男に叫ばれた。

どうやら彼はこれはマルクトの攻撃だと疑っているらしく、負傷しているにも関わらずこちらに剣先を向けた。

言われてみれば当然である。

敵国の軍人が被害現場にいる所を見つければ、当然敵に襲撃されたと思うだろう。

しかし、陛下は和平のためにジェイドを名代としてキムラスカへ放ったのだ、マルクト軍にこんなことをさせるはずがない。

まずは誤解を解かなくてはならないだろう。



「落ち着きなさい!私ではありません。一体何があったんですか!?被害は?!」

「て、敵などに教える気は無い!お前、奴等に加勢するつもりだな!」



攻撃してきた側の人間がわざわざ被害を聞くだろうか。

きっと彼は突然の事態に混乱しているのだろう。

私のことを信用してくれる気配がまったくない。

しかし、このまま彼に立ち塞がれてしまってはしょうがない。



「いい加減になさいっ!貴方だって大怪我をしているじゃないの!……埒があかないわ、ちょっと強引だけど通してもらうわ」



私の言葉に兵が剣を再び構えなおしたが、お構いなしだ。

取り出した右のナイフで攻撃を受け流して、彼の背後に回りこみ、そのまま手刀を放った。

彼はあっけなく気絶してくれた。

流石にこのまま放っておいても彼を死なせるだけなので、オレンジグミを口に放り込んでやった。



「後ろから来るティアに癒してもらえると思うから……。大人しくしていてね」



彼が意識を取り戻す前に行かなくちゃ。





- * -





「これは、酷いわ……」



辺りには鉄のような臭いが充満していた。

血だ。

戦場跡のようであったが、ただ一つ違う所があった。

……うめいている人間すらいないのだ。

当然、立っている人間も私だけだ。

桟橋へ向かえば向かうほど、視界に入る血の量、死体の量が増えていく。

人数はタルタロス以下だが、十分に惨い状態だった。

死体の傍のあちこちに内蔵が零れ落ち、まるで何か獣が食い荒らしたような。

内蔵だけじゃない。

手、足、頭、脳、肉、みんな所々、どこかが欠けてしまっていた。

嫌だ、なんでこんな、大勢が。



「なぜこんなことをした、アリエッタ!」

「だって、だってぇ……!」



突然、剣戟のような音と共に怒鳴り声と泣きながらのような声が聞こえた。

走りながら角を曲がると、見たことのある姿が確認できた。

だから迷わずに叫ぶ。



「……やっぱり貴方達、六神将の仕業なの?!」



二人で向かい合っていた六神将妖獣のアリエッタと神託の盾主席総長ヴァン・グランツがこちらを見る。



……?」

「……マクガヴァン大尉か」



アリエッタは困惑しているようだし、ヴァンは―――彼から表情は読み取れなかった。

というものの、それは彼がアリエッタに向き直ったからだった。

私の相手などしている場合ではないとでも考えたのだろう。



「一体なぜ、どうして?!和平を邪魔したいのなら直接私達を狙えばいいでしょう!」



頭に血が上って、上手くモノを考えられない。

アリエッタは答えなかった。



「ルーク達はどうしましたか?まさかマクガヴァン大尉、貴女一人で来たわけでは――――――」

「師匠!」



やっと後ろから来たルークの声に、ヴァンの声が止まった。

ルークがこちらに駆けて来る。



!」



何も考えられなくなっていた私の名を、ジェイドが呼んだ。

意外だ、彼がこんな風に私の名を呼ぶとは思っていなかった。

急に思考がクリアになっていく。



「ジェイド……?」

「話は後です」



イオン様、アニス、ガイ、ティアもいた。



「……何があったの?」



ティアが前に歩み出て、まるで事務的にヴァンに聞いた。

そうするティアは油断なく、投擲用ナイフを構えている。



「見てのとおりだ、アリエッタが船を襲わせていた」



そうだ、船!

死体に気を取られてばかりで、すっかり忘れていた。

船は所々から煙を上げていて、いたる所に亀裂が走っていた。

どうやら火事までは起こっていなかったらしく、爆発の心配は無さそうだった。

きっと船の中にも大勢の人間の、惨い亡骸があるのだろう。

そう思うと、また頭に血が上りそうになる。

だが、今すべきことは違うんだと自分に言い聞かせた。



「アリエッタ!誰の許しを得てこんなことをしている!」



ヴァンが剣の切っ先をアリエッタに向け、糾弾した。

それを逃れようとしてか、アリエッタはアニスの『トクナガ』に似た人形に顔を埋めて、呟いた。



「ごめんなさい……総長……。アッシュに、頼まれて……」

「アッシュがだと?」



ヴァンが少し驚くようにして声を出した。

そして一瞬、切っ先がアリエッタから逸れた。

突然何かが目の前を横切った。



「なっ!」

「く……っ!」



ルークが驚愕し、ガイが突風にうめいた。

叩きつけられるような強い風を出す、巨大な鳥の魔物が現れたのだ。

その足にアリエッタがしっかりと掴まっている。

ティアが投擲用ナイフを投げたが、あっさりと風によって地面に叩きつけられてしまった。



「やられましたねぇ」



隣で呑気にジェイドが呟く。

その言葉の裏には、『だからあの時彼女を殺しておけばよかったのに』とある気がするのは、多分気のせいなんかじゃない。



「整備士さん達は、アリエッタが連れて行きます……。返して欲しければ、ルークとイオン様が……コーラル城に来い
……です。……来ないと、あの人達……殺す……です」

「そんな―――きゃっ」



再び、叩きつけられるような強い風が起こる。

砂塵も巻き上がり、それが身体に当たる。

はっきり言って、痛い。

顔を腕で庇い、仕方なく風が収まるのを待つしかなかった。





- * -





「隊長を見捨てないでください!」



ヴァンは行くなと言っているが、どうもこの雰囲気ではコーラル城へ行くことが決まったようなものだ。

私もティアの言う通り、ヴァンが整備士を生かしておくとは限らないと思う。

もちろん、多少バチカル行きが遅れるとしてもコーラル城に行くのは賛成だ。



「わーかった、わかったから!行けばいいんだろ?……ったく、師匠は行くなって言ってんのによぉ……」



勘弁してくれ、とでも言うようにルークが両手を挙げた。

コーラル城行きが満場一致で決定した。





- * -







「……何かしら?」



コーラル城へ向かう為に歩いていると、ジェイドが私の背中をつんつんと突付いて呼んだ。

振り返るとがしっと強く両肩を掴まれた。

ちょっと痛いし怖い。

にっこりと笑っているのが、なおさら怖い。



「もう、今日みたいに何も言わずに先へ行かないでください。私が目を離すと貴女はすぐに無茶をする」

「え、あ、……今回は無茶していないわ!」



二人で肩を並べて、こそこそと話す。

少しくらい、と口答えしたのはまずかったかもしれない。



「……『今回は』?」

「うっ……」

「……それに、軍港の入り口付近で兵士が一人倒れていましたねぇ」

「……怒ってるの?」

「当然です」

「……もうしません、多分」



ポンポンっといつもみたいに頭を撫でられた。

いや、ポンポンっていう音は撫でられているというよりも、叩かれているような気がしなくもない。