「あれ・・・・・・?」



だんだん視界がはっきりしてくる。

・・・・・・タルタロスの艦内だ。

見慣れた天井が視界を占拠する。

なんだか夢を見ていた気がしたのだが・・・・・・。

ドンドンと扉を叩く音がする。

ああ、この音で私は起こされたんだと妙に納得した。

ぼーっとしていたので直ぐには気が付かなかった。





Chapter.1 - Act.1 何かが違う朝





「大尉ー」



急いでベットから降りて扉に近付く。

珍しく、少し寝過ごしてしまったかもしれない。

いつもの仮眠より三十分は多く寝てしまった。

きっとこの扉の外にいる人間は、ジェイドに頼まれて私を呼びに来たのかもしれない。

だがさすがに顔も洗っていない状態で人前に出るわけにはいかない。



「ごめんなさい、今起きたばかりで・・・・・・。用件をどうぞ」

「あ、大尉。やっぱり寝ていたんですか」



少女特有の少し高めの声がした。

誰の声だったかと思い、まだ少し眠たい頭をフル回転させた。



「ええと、貴女は・・・・・・アニス・タトリン奏長?」

「正解でーす、導師守護役のアニスですよ」

「・・・・・・もしかして、カーティス大佐に私を起こすように言われましたか?」

「そのとーりです」

「すみません、寝過ごしたりなんかしてしまって」

「いいえー、そんなことありませんよ」



本当に、どうして今日はこんなに寝過ごしたんだろう。

軍人として情けない。



「大佐は今どこに?」

「ブリッジだと思いますよ」

「ありがとうございます。今行きます」

「どういたしまして」



部屋の前からアニス奏長が立ち去る足音を確認し、急いで洗面台に向かった。

顔を洗わなきゃいけないし、髪だってきちんと結ばなくてはならない。

急がなくては。










「ごめん、ジェイド」

「やっと起きましたか。それにしても珍しいですねぇ」

「うっ・・・・・・。自分でも情けないわ」



ブリッジへ向かうとジェイドがいた。

二人だけでいるときは敬語は抜きだ。

もう六年来の知り合いだ、当然だろう。

しかし、一応私も彼も軍人なので、普段からでは部下達に示しが付かない。

だからこそ二人だけのときは敬語抜きだった。



「今日の針路は?」

「エンゲーブです。正確な行程の割り出しをお願いします」

「わかったわ」



しばらく事務的な会話を行っていると向こうからイオン様が歩いてくるのが見えた。

アニス奏長も一緒だ。



「おはようございます、イオン様」

「ええ、おはようございます、



イオン様がにっこりと優しげに微笑む。

十四歳なのにすごい貫禄があるというか、なんというか。

器が大きいとでも言うのだろうか。



「あ、アニス奏長、先ほどはどうもありがとうございました」



呼びに来てくれたアニス奏長に再度御礼を言う。

するとなんだかむず痒そうな表情をした。



「大尉、アニスでいいですよ?堅苦しいの嫌だし」

「そう?それじゃあアニス、私も大尉じゃなくてって言って?」

「うん。この艦、女の人が少ないでしょ?私、なんだか詰まらなくて」



えへへーとアニスが締まりの無い顔をする。

確かにタルタロスには圧倒的に男性軍人が多かった。

見たところ彼女もイオン様と同じように幼い。

周りが異性ばかりでは退屈だろう。



「よかったですね、アニス」

「うん!」



こうしていると歳相応なのに。

普段のアニスとイオン様は普通の少年少女よりも少々大人びている気がする。

大人ばかりに囲まれて生活しているせいだろうか。



「なんだか初々しいカップルみたい」

と大佐の夫婦っぷりには敵わないよー」

「・・・・・・アニス、誰と誰が夫婦ですって?」

「えー、だからぁ、と大佐」



散々陛下や部下、果てはゼーゼマン参謀総長にもからかわれているネタだった。


一体、どう見たら夫婦に見えるのだろうか。



「やはりアニスにもそう見えますか」



そう、毎回毎回ジェイドが調子に乗るからいけないのだ。



「僕もそう思いますよ?」

「・・・・・・イオン様まで・・・・・・。大佐、否定してください」

「嫌です」

「・・・・・・」



孤立無援とはまさにこの事だろうと思った。