「でも、ちょっと異常だわ」
今までと反対方向に歩きながらそんなことを思った。
ちらりと、ついさっきに倒した魔物を見る。
その魔物とはライガなのだが、数が異様だ。
はっきり言って多すぎる。
そもそもここはチーグルの森であって、本来ライガはもっと北の森に生息しているはずだ。
それに、ライガは肉食だ。
彼等がチーグルを食べることも十分考えられる。
共生しているわけではなかろう。
ではなぜ?
「あー、見つかんねー!どこいんだよ」
「もう少しだとは思うけど」
「がんばりましょう、二人とも」
少し後方から、話声が近付いてくることに気が付く。
「誰か来る・・・・・・」
普通の人間がこんなところに足を踏み入れることはない。
ならば盗賊か、密猟者か。
どちらにしろ姿を見られては少々面倒。
人数は二人、いや、三人?
地面を蹴って、木の上へと跳躍する。
・・・・・・うん、ここなら見つからないだろう。
「それにしても、結構奥に来ましたね」
木々の葉に混じって、入り口に置いてきたはずの緑色が見えた。
またか。
まったく困った導師様だ。
そう思って木から飛び降りようとすると、私の気配に気がついたのだろう、ティアさんが短刀を私に向かって投する。
「何者っ!」
的確だけれど、避けられない速度ではない。
むしろ、どこか甘い。
やっぱり彼女も軍人ではないのでは・・・・・・?
「・・・・・・イオン様、約束はお忘れで?」
「・・・・・・すみません、」
二投目が来る前に木から飛び降りた。
イオン様以外の二人が私の姿を見て驚く。
ただし、驚く意味が違ったようだ。
「大尉!す、すみません!」
「・・・・・・?ああ、あの眼鏡野郎の部下か」
「眼鏡野郎って・・・・・・。まあ、あながち間違いではないわ。ティアさん、気にしなくていいですよ」
眼鏡野郎。
なかなか的確だ。
「チーグルはローレライ教団の聖獣ですから、気になるのでしょう。ですが、イオン様。この周辺は魔物が多いんですよ?危険です」
「そーそ。こいつ、森の入り口で変な術使って倒れてたんだぜ?」
「変な術・・・・・・?・・・・・・ダアト式譜術をお使いになられたんですか!?お体は大丈夫ですか、イオン様」
「少し苦しいですが、大丈夫です。心配かけてすいません」
「私の配慮が足りませんでした・・・・・・」
イオン様を見ると確かに苦しそうだった。
もともと体の弱い御方なのに。
森の入り口だろうと魔物は出ることくらい考えるべきだった。
「あの、大尉はなぜここに?」
「イオン様に同行して来たんです。・・・・・・なぜマルクト軍の私達がイオン様といるのかは、軍事機密になるのでお教えできませんが」
「あ、そうだ!なんでイオンが行方不明扱いになってんだ?」
「行方不明?そんな話になっているんですか?」
「そうらしいです。昨日、アニスも言っていました」
「・・・・・・えーと、そのことは私が後でカーティス大佐に確認します」
二人には言えないが、きっとモース様側が情報源だろう。
モース様に軟禁されていたイオン様を救出したのだから、モース様側から見ればマルクト軍は立派な誘拐犯となる。
そして、『誘拐』という言葉を使えば、自らの行為を棚に上げて、マルクト帝国の行為を批判することができる。
「とにかく、チーグルの巣を見つけるのが優先ですね」
「それらしいのなら、あちらの方にありましたよ」
「本当か?!」
「ええ。随分大きな木でしたよ」
ルークさんを先頭に、先ほどの地点を目指す。
私が倒してきた魔物の死体はいつの間にかに消えていた。
「このリンゴには、エンゲーブの焼き印がついていますね」
ふとイオン様が地面に落ちていた真っ赤なリンゴを手にする。
ここは私が先ほど見た位置の反対側だ。
こちらも見ておくべきだった。
軽くショックを受ける。
隣では、やっぱりこいつらが犯人か、とルークさんが再び憤っていた。
相当、濡れ衣を着せられたのを根に持っているらしい。
「この木の中から獣の気配がするわ・・・・・・」
「チーグルは木の幹を住み処にしていますから」
「やっぱりここでしたか」
巨木を見上げる。
一体この木はいつからここに立っているのだろうか。
チーグルは始祖ユリアと契約を交わしたと聞く。
ならば、そのころからここに佇んでいるのだろうか。
あの町の木も同じくらいの年月をあの町で過ごしているのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、イオン様はどんどん先へ行ってしまう。
「導師イオン!危険です!」
「しょうがねぇガキだな・・・・・・」
ティアさんの静止も聞かず、進んでしまう。
呆れた様子でルークさんも付いていくが、彼もまだ十分に子供ではないのだろうか・・・・・・。
「だーっ!てめぇ、むかつくんだよっ!焼いて喰うぞ、オラァ!」
付いてくることになったチーグルの子・ミュウに対する彼を見て、やはり子供だと思った。
まあ、元気がいいのはいい事だ。
それに、それ以上に気になる事がある。
「ライガ・クイーン、ねぇ・・・・・・」
ライガの生態を思い出す。
あれは雌がトップに君臨する種族だ。
そして今の時期は卵の孵化が行われるはず。
すなわち、ライガ・クイーンは凶暴化している。
・・・・・・だが、この事をルークさんとイオン様に言っても聞かないだろう。
「ジェイド、私に面倒を押し付けたわね・・・・・・」
嫌味な上司を思い、そっと溜息をついた。
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