「なんとかして差し上げましょう」



聞きなれた声が後ろから響く。

瞬間、安心で体の力が抜けるかと思った。



「ジェイド!」



振り返る。



〜?随分とてこずってますねぇ」

「・・・・・・ばか」





 Chapter.1 - Act.5 獣の咆哮に疼く心





チーグルの依頼を受け、ライガ・クイーンの巣の奥へと向かっていく。

薄暗いが、所々から光が差し込んでくる。

神秘的とも見て取れるその様子に、私は確かに見覚えがある。

似たような様子を、どこかで。

考えると頭が痛かった。



「あれが女王ね」



大きな、広場のような空間が目の前に広がる。

ライガ・クイーンは玉座のような場所に佇んでいる。

やはり、そこら辺にいるライガとは雰囲気が違う。

明らかにビリビリとした空気が肌に纏わりつく。



「ミュウ。ライガ・クイーンと話をして下さい」



少しも臆さずにイオン様が言う。

言われてミュウが進み出て会話を試みる。

と言っても、私達にはみゅうみゅう言っているようにしか聞こえない。



「―――――!!」



ライガ・クイーンが、大きく吠える。

瞬間、私の体が強張る。

なんで?

少し遠くでルークさん達の会話が聞こえる。

・・・・・・何かが頭の中に流れ込んできた。

会話じゃない。

・・・・・・これは、歌?



「うっ、ああっ・・・・・・!」



その歌はどこかで聴いたことがある旋律で、けれどもやっぱり思い出せない。

自分が自分じゃないみたいで、嫌だ。



「大丈夫かよっ?!」



異変に気がついてくれて、ルークさんが心配してくれる。

けれども今、私なんかを気にしている場合じゃないだろうに。

ライガ・クイーンは殺気立っているのに。



「・・・・・・ごめっ、な、さい。・・・・・・ちょっと、無理、みたいっ。頭が・・・・・・」

「三人とも!ライガ・クイーンが!」

「くっ!」



割れるように痛む頭を押さえながら、ふらふらする足元を叱咤しながら立ち上がり、二本のナイフを正面で構える。

逆手で持つそれは、よく掌に馴染む。

戦わなくては。

導師を守らなくてはいけない。

ジェイドの命令だから、遂行しなければ。
 
・・・・・・せめて、今この状況で足手纏いにならないくらいなら戦える。

二人をサポートする形なら、なんとかなるだろう。










思ったよりもライガ・クイーンはしぶとかった。

ジェイドが来てくれなかったらどうなっていた事か。



「・・・・・・なんか後味悪いな」

「優しいのね。・・・・・・それとも甘いのかしら」



ああ、そうか。

彼は戦い慣れていないのだ。

ティアさんの言葉は最もで、それは同様に私に突き刺さる。

実際、私は何もできなかったに等しい。



「アニス!ちょっとよろしいですか」

「はい、大佐vお呼びですかぁ」



アニスが呼ばれる。

副官の私ではなく、アニスが呼ばれる。

・・・・・・仕方ないか。



「えと……わかりました。その代わりイオン様をちゃんと見張ってて下さいねっ」



可愛らしいツインテールが揺れながら遠ざかっていく。

本来ならあの役は私なのに。

情けなくなった。



「気分はどうですか?今日も顔色があまりよくありませんねぇ」

「・・・・・・」



押し黙ったままでいると、腕を引き寄せられ、、耳元で囁かれる。

耳に触れる吐息が少しくすぐったい。

とくんとくんとジェイドの心臓の音が聞こえてきて、安心する。
 


「しばらく私から離れないで下さい。心配ですから」

「ジェイド・・・・・・。分かったわ」

「いい子ですね」


体を解放されて、頭をぽんぽんと撫でられる。

子ども扱いしないでって言ったのに。

それでもジェイドなりの優しさなので、やっぱり嬉しい。

・・・・・・それにしても、ライガ・クイーンの咆哮を正面で受けたときの、あの体の感覚。

今は大分薄れたが、本当になんだったのだろう・・・・・・。



「少し座っていなさい。私はみなさんと話をしてきます」

「ええ」



少し遠くからぼーっと四人を眺める。

会話を聞きながら、ああ、そういえばジェイドは養子だったななどと思う。

私も同じような言葉を言われたな。

最初は私も公私共にカーティス大佐と一貫して呼んでいた。

懐かしい、あれからもう六年経つのだ。



「話が纏まりました。一度チーグルの巣へ戻ります。歩けますか?」

「ん」



返事をして、足に力を入れるがフラフラして安定しない。

危ないと思った途端、かくんと膝が折れる。

あ、お尻打ちそうだ。



「大丈夫じゃなさそうですね」

「・・・・・・すみません」



尻餅を付きそうになった瞬間、ジェイドに腕を捕まれてなんとか堪える。

悔しいが、大丈夫ではなかった。



「仕方ありませんねぇ」

「え、ちょっと、降ろしてっ!」

「お断りします。そんな様子で、倒れられては困りますからね」

「ごっ、ごめんなさい!」



顔がかぁっと赤くなる。

イオン様達もいるのに!

いくらなんでも世間一般で言う『お姫様抱っこ』は恥ずかしい。



「・・・・・・なあ、とあんたって恋人?」

「・・・・・・違いますから・・・・・・。見ないで下さい・・・・・・」

「え、違うんですか?」

「おや、ばれましたか?」

「だから否定してって・・・・・・」

「それだけお二人が仲良く見えるということですよ、

「・・・・・・あー、もう・・・・・・」



これ以上反論する気にもならなかった。