甲板は既に血の海だった。

そこら中に漂う、その嗅ぎ慣れた匂い。

もはや、誰から、何から流れたのかすら分からなかった。





Chapter.1 - Act.8 積み上げられた骸





「狂乱せし地霊の宴よ」



第二音素が私の体に集まる。

曲げていた腕を敵のオラクル兵へ向けて、詠唱を完成させた。



「ロックブレイク!」



すぐさま大地が甲板上に形成されて、そのまま大きく隆起した。

何人ものオラクル兵がそれに巻き込まれていった。

叫び声と呻き声。

誰か親しい者の名を、愛しい者の名を呼んでいるかもしれない。

もしくは私に向かって、罵声を放って、非難しているのかもしれなかった。

しかし、一人一人の声を聞く暇などない。

まだまだオラクル兵は大勢いる。



「あ゙ぁ゙ーーーっ!!」



がむしゃらにオラクル兵の一人が私に突っ込んでくる。

避けるわけにはいかない。

避ければ部下達に被害がいくかもしれない。



「っ、・・・・・・はっ!」

「うっ!!」



左のナイフで敵の勢いを受け流し、そのまま腹部目掛けて、逆手から持ち替えた右手のナイフを力の流れに乗せて振った。

なんとも言い難い感触が、右手から全身に向けて流れた。

意識してはいけない。

――――――だから一思いに。



「・・・・・・がはっ!」



オラクル兵がよろめき、倒れた。



「はあああぁぁぁーーーーーー!!!!!」



今度は私が敵兵達に突っ込む。

周囲のマルクト兵の数も随分減っていた。

――――――ああ・・・・・・、ごめんなさい。

私がもっと強かったら貴方達を死なせることもなかったでしょうに。

見知った顔の沢山の部下達が、骸と化している。

ある者は頭から血を大量に流し、ある者は中身が見え隠れしている。

なんてことだろう。

いつもこうだ。

せっかく仲良くなった部下達が、戦で死んでいく。

戦が終わると当然のように、新しい人材が投入されるのだ。



「――――――っ・・・・・・!」



右から、左から、次々に攻撃が振ってくる。

今は、集中しなくては。

・・・・・・これが終わったら、このことについて、思う存分考えられる。

敵兵はまだまだいるのだから、まずはこっちを優先だ。










「大尉っ!敵兵が、多すぎますっ!!」

「くっ!私が貴方を援護します。だから詠唱をっ!」

「了解、しましたっ」



背を合わせていたマルコを援護するために、一歩前に出ようとした。



「マ、マルコっ!?」

「す・・・すみま・・・せん・・・・・・、力に・・・なれ・・・そうも・・・あり・・・ません・・・・・・」



彼の腹部には深々と長剣が刺さっていた。

馬鹿な、と思った。

一瞬して、血が流れ出す。

そのまま彼は目を閉じて、開くことはなかった。



「そんな・・・・・・」



ジェイドの大尉だったマルコが。

死んだ、彼は。



「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ーーーっ!!!!」



こうして親しかった人間を失うのは、一度や二度ではない。

けれども、悲しくて、悔しかった。

慣れたりなんか、するわけがない。

慣れたくなんかない。










黒色の揚羽蝶 (ウィザード) !?」



目標地点にいるオラクル兵が、彼女の構えている黒い二本のナイフを見て叫ぶ。



「炸裂する力よっ!エナジーブラストっ!!」



はただもう、滅茶苦茶だっだ。

彼女は走りながら詠唱し、斬りながら譜術を発動させていた。

普通ならそんなことは到底ありえない。

だが、彼女はそれを行っていた。

理性など、吹き飛んでいた。

けれどもはオラクル兵を倒し続けた。



「流石は黒色の揚羽蝶 (ウィザード) 。だが後ろがガラ空きだな」



途端、ドスンとの首筋に向かって手刀が落とされる。



「え?」



一瞬、正気に戻って、そのまま彼女は倒れこんだ。

朦朧とする視界と意識の端で、手刀を行った人物を見上げる。

全神経を酷使して見たその人物は、紅い髪をした男だった。