深い闇に沈んでいた私を引き上げたのは、誰かの声





Chapter.1 - Act.9 差し出された蒼





「起きろ、

「・・・・・・っ・・・・・・!?」



バシャン



「冷たっ・・・・・・!!」



水?!

あまりの冷たさに飛び起きた。

・・・・・・もともと寝ていたという自覚は無かったけれども。

一体何が起きたというの?

状況を把握しようと辺りを見回すと、タルタロスの船内だった。

罪人用の船室で、まるで牢屋のように鉄格子が嵌め込まれているところだ。

たしか私は甲板で戦っていたはずだ。

大勢のオラクルと、ライガにグリフィンと・・・・・・。

途中から記憶がぷっつりと途絶えている。

・・・・・・マルコが死んでしまった辺りから、ぷっつりと記憶が存在しない。

気を失う直前の記憶と言えば、紅い―――そう、まるでルークのような紅い髪で・・・・・・。



「目は覚めたか?」



目の前にいる人間は、まさにその紅い髪を持っていた。

オラクルで、紅い髪。

私は一つの噂を耳にしていた。

ただし、その噂は一度だけ聞かされたものだ。

彼の名を思い出そうと意識すると、自然にするりと彼の名が出てきた。



「!六神将・・・・・・鮮血の、アッシュ!?」



たしか『特務』師団長。

その紅い髪は血で染まった、なんてこともまことしやかに囁かれているらしい。

表舞台には殆ど出てこないはずだ。

でも、その彼がなぜこんなところへ?



「・・・・・・それだけか?」

「え?」

「いや、なんでもねぇ」



口を挟む前に勝手に自己完結をされてしまった。

わけが分からない。

ふいっと後ろを向かれてしまった。
 


「殺さないの?それとも捕虜かしら?」



あれだけ中立を謳うオラクルが、マルクト船籍を襲っただなんてことが世間に知られるわけにはいかないだろう。

目撃者は一人残さず殺してしまうのがお約束というものだ。

そこまで考えて無性にみんなが心配になった。

・・・・・・ジェイド達、大丈夫かしら?

ジェイドが危険な目に合うかどうかと言われれば、正直言ってありえない。

でも万が一が起りうるのが戦場だ。

だからこそ、マルコ達が死んだのだ。



「殺さない――――――いや、殺せない」

「どういう意味?」

「とりあえず、こういうこった」



カランッ!


 
蒼い鞘に収められた二本のナイフがアッシュによって目の前に落とされた。

私のナイフだ。



「見逃してくれるってこと?」

「今回だけだ。・・・・・・そう何度も見逃すと俺の身が危ねぇからな」

「今ここで私がナイフを抜いて、貴方を攻撃したらどうなる?」

「後悔させてやるよ」



はっ!とアッシュが鼻で笑い、一蹴した。

彼はそのまま後ろを向いて、この場を去ろうとした。



「今は左舷昇降口だけが使える。死霊使い殿が非常停止してくださったからな」

「・・・・・・いつか借りは返すわ」

「・・・・・・早く行け!お仲間に置いてきぼり喰うぞっ!!」



今度こそ本当にアッシュが出て行った。

本当は戦って倒してしまえるものならそうしたかったが、今はそうするべきではない。

下手に彼を攻撃して騒ぎを起こしてしまえば私が殺されてしまうし、何より今がとても逃げやすい状態であるのだから、みんなと合流するためにもできるだけ静かに動きたい。

それに、今この艦には六神将が他にもいるのではないだろうか。



「早く、合流しなくちゃ」



濡れた服をなんとか乾かそうと、第三音素の譜術を少し使う。

服が乾き、立ち上がると全身が筋肉痛になったかのように痛かったが、そんなことは我慢すれば済む話だ。

そしてナイフをいつものように腰に戻すと、何故かとても安心した。