「奴らが逃げたぞ!」
どたばたと数人分の足音がした。
オラクル兵だろう。
「まさかっ!死霊使いの譜術は禁じたんだろう?!」
・・・・・・なんですって?
ジェイドは今、譜術が使えないということ?
封印術でも持ち出されたのだろうか。
譜術が無くなったからといって、ジェイドは槍が使えるのでそこらへんの人間に負けることはないだろうが、心配だ。
それにさっきから彼らはかなりばたばたと慌しい。
聞き耳を立ててみれば、そろそろこちらへ六神将『魔弾のリグレット』が帰ってくる、とこのことだ。
「早く逃げなくちゃ・・・・・・!!」
今度こそ、捕まったら殺されてしまう!
もともと、強襲などにあった場合に備えて集合場所は決めてあった。
――――――城砦都市『セントビナー』、私の大事な場所。
とにかく左舷昇降口目掛けて走った。
体は痛いし、頭もちょっとふらふらするが、今はそれどころじゃないんだ。
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| Chapter.1 - Act.10 揺れる瞳と対峙して |
「どっちにしろ、封印術のせいでセコい譜術しか使えねーんだろ」
「あら、やっぱり封印術にかかったのね。少しずつは解いてはいるんでしょうけれど」
ラッキーなことに皆が左舷昇降口で見つかった。
どうやら、誰かを待ち伏せしているらしく、扉から外へ出ずに外の様子を窺っている。
私の声に気がついてジェイドがこちらを向き、微笑んだ気がした。
後からルークとティアさんの声が続く。
「っ!!」
「大尉!」
「お久しぶり、ルーク、ティアさん。ああ、あとジェイド」
「随分な挨拶ですねぇ」
「後にしてください。今は今、やるべきことがあるのでしょう?」
「ええ、敵さんが来たようですよ」
ジェイドの言葉に耳を澄ませると、様々な音が耳に入り込んできた。
風の音、獣の鳴き声、木々の葉が擦れ合って揺れる音――――――そして足音と衣擦れの音。
誰かがタルタロスに近付いてきたのだ。
我ながらナイスタイミングにここに来れたものだと思う。
人数は・・・・・・足音からして、三人だ。
「非常昇降口を開け!」
「はっ!」
外で命令をする、感情を感じさせない声が聞こえた。
低くはあるが、男性的ではない。
きっと六神将・魔弾のリグレットだ。
「おらぁ!火出せぇっ!」
ルークがミュウの頭を掴んでオラクル兵の前へ突き出し、火を出させた。
なんだかどちらも可哀想な気がしたが、そんなことを気にしている場合でもない。
炎は兵を直撃し、鎧を着ていると言ってもかなりダメージを受けたようで短い悲鳴をあげた。
そしてそのまま無残に階段を転げ落ちた。
「ちっ!」
その一連の出来事に、魔弾のリグレットは素早く反応していた。
魔弾と呼ばれる異名の通りの譜銃(きっと特注品だ)を素早く構え、奇襲に対抗しようとしていた。
一瞬、こちらに譜銃を構えた彼女と目が合い、彼女の瞳が僅かに揺れた気がした。
ジェイドはリグレットの、その一瞬の動揺を見逃しはしなかった。
突然、リグレットが後ろに跳び退り、刹那前までいた場所に槍が刺さる。
囮だ。
「ルーク、イオン様をお願い!!」
「おう!」
リグレットはイオン様を連れていた。
奪還しなくてはいけないと思い、ここはルークに任せることにした。
リグレットが跳び退る姿を確認して、ナイフを手に私も彼女に向かって跳躍した。
彼女がそれに気がつき逃れようとしたが、私の一発目も囮だ。
ガキィーンと私のナイフと彼女の譜銃がぶつかり合う。
だがこれも後ろに素早く回りこんだジェイドの元へと誘導する為の囮でしかない。
「さすがジェイド・カーティス。譜術を封じられても侮れないな」
「お褒め頂いて光栄ですね。さあ、武器を棄てなさい」
ジェイドが後ろから、私が前からリグレットの動きを封じるために、首に槍とナイフを突きつける。
それでもリグレットはどこか余裕のある表情をしていて、死ぬかもしれないという恐怖は微塵にも見せない。
こういう相手は、やりにくい。
ジェイドとリグレットは短く言葉を交わしたが、リグレットはまったく私については触れなかった。
いや、わざと触れようとしなかったようにも見える。
でも一体なんのために?
彼女の譜銃がカランと音をたてて地面に落ちた。
「ティア!譜歌を!」
ジェイドが叫ぶ。
確かにいくら動きを封じているとはいえ、彼女をこのままにしておけば危険だ。
眠らせておくのが得策だろう。
「ティア・・・・・・?ティア・グランツか・・・・・・!」
「リグレット教官!?」
ナイフをリグレットに突きつけたまま後ろを振り返って見ると、今度は階段にいたティアとリグレットの視線がかち合っていた。
二人は互いに驚いたようで、目を見開いている。
だが、そうしていられない事態が起こった。
体中の血の気が引くのがわかる。
ライガが階段の最上部にいるのが見えた。
「ティア!後ろ!」
「くっ!」
ティアは何事か分かってくれたようで、素早く跳躍した。
階段に白い閃光が走った。
バチバチと光を発するそれは、明らかに階段の最上部にいるライガによる攻撃だ。
そう思って再び最上部を見やると、一匹のライガの後ろから、一人の少女が現れた。
「妖獣のアリエッタ!」
「・・・・・・ご主人様、囲まれたですの・・・・・・」
ミュウの言う通りだった。
囲まれた。
ライガとグリフィンを操っていた者がいることをすっかり忘れていた。
これで完全に形勢が逆転しただろう。
アリエッタは多数の魔物を操ることができる。
「アリエッタ!タルタロスはどうなった?」
「制御不能のまま・・・・・・このコが隔壁、引き裂いてくれてここまでこれた・・・・・・」
「よくやったわ。彼らを拘束して・・・・・・」
リグレットが言いかけて、何かに気がついたように上を見上げる。
―――気配が増えた?
今度は何だろうと、私も見上げた。
空から何かが、影が落ちてくる。
人?
その人物はこちらに落ちてきてリグレットを弾き飛ばし、再び彼女に隙ができる。
ジェイドはぱっと跳び退ると、アリエッタへ向かう。
拘束するなら今しかない。
ならば、私が拘束すべきはリグレットだ。
そう思い、身を翻すと彼女は既に譜銃を拾い終え、構えようとしていた。
「させないっ!」
「なっ?!」
力の限り右のナイフでリグレットの譜銃を弾き飛ばし、もう一方の譜銃はナイフで封じるだけとなった。
けれどもそれでは危険が残っているので、もう一度衝撃を与えてそのまま後ろに回りこんでナイフを首の当てた。
他の皆はどうしているのだろうと思い、見渡しているとジェイドは同じようにアリエッタを拘束することに成功していた。
「また形勢逆転ね。・・・・・・動かないで。アリエッタがどうなってもいいの?」
彼女が動いたらジェイドは躊躇なく、アリエッタの細い首を落とすだろう。
なかなか仲間思いなのか、リグレットは抵抗を止めた。
「ガイ様、華麗に参上!」
その声の方へ視線を向けると、短い金髪の青年がいた。
見ると彼は脇にイオン様を抱えている。
どうやら、アリエッタの連れてきたオラクル兵に囲まれていたイオン様を取り返してくれたようだ。
どこの誰かは知らないが、助かった。
「さあ、もう一度武器を棄ててタルタロスの中へ戻ってもらいましょうか」
残ったもう一方の譜銃を地に捨てたのを確認すると、私は彼女の首からナイフを退けた。
そのままリグレットは素直にその言葉に従って、左舷昇降口への階段へ移動した。
「さあ、次はあなたです。魔物を連れてタルタロスへ」
「・・・・・・イオン様・・・・・・。あの・・・・・・あの・・・・・・」
「言うことを聞いてください。アリエッタ」
アリエッタが何かを言いたそうに、イオン様の名を呼ぶ。
それを感じ取ったのか定かではないが、イオン様はアリエッタに優しく懇願するように言った。
迷ったようにアリエッタはしていたが、ゆっくりと頷くと階段へと小走りで向かって行った。
それに他の兵や、ライガ達が続く。
「、パネルを操作して隔壁を閉じて下さい」
「わかったわ」
ジェイドに言われた通りにパネルを操作しながら、今回の任務はそう簡単には行かなさそうだなと思った。
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