「そちらさんの部下は?まだこちらの陸艦に残ってるんだろ?」



ガイさんの声が頭に響く。

思い浮かぶのは、湖のような血溜りに伏す、大勢の同僚達だった。

いつものように笑いかけてくる彼等ではなく、苦しそうに呻く姿で――――――。





Chapter.1 - Act.11 憶えの無い既視感





「生き残りがいるとは思えません。証人を残しては、ローレライ教団とマルクトの間で紛争になりますから」

「・・・・・・ええ。私が生きていたのが不思議なくらい」

「・・・・・・何人、艦に乗ってたんだ?」



ルークがジェイドに向かって問う。

もう耳を塞いでしまいたかった。

・・・・・・聞きたくない。

そう思うのと、これからすべきことを考えると目を逸らしてはいけないという気持ちで私は迷った。



「今回の任務は極秘でしたから、常時の半数―――百四十名程ですね」

「百人以上が殺されたってことか・・・・・・」



百四十。

戦争に比べれば、少ない被害だ。

ましてや、平和のための犠牲だと思えば・・・・・・。

そう思い切れてしまえば、どんなに楽だろうか。

・・・・・・犠牲の上に成り立つ『平和』、か。

たしかに、戦争が起こってしまえばもっと多くの人間が傷つき、死んでいくことになる。

力のない民間人が敵兵から逃げ惑い、抗う術もなく殺されていく――――――。

それこそ百四十よりも多くの数が消えてしまうだろう。

そう思ったところでふと疑問が沸く。



もしも、もしもだ。

もしも私にもっと力があって、強かったならば。

あの時だけじゃない。

過去に兵士として出陣したその先でもそうだ。

私に、もっと力さえあれば――――――。



「行きましょう。私達が捕まったらもっとたくさんの人が戦争で亡くなるわ・・・・・・」



感情を押し殺したようにして、ティアが皆を先へと促した。





私は死ななくてもいい人達を殺したようなものではないか。

――――――私は、とても非力だ――――――。










っ!」



急にルークが強く私の名を呼んだ。

はっとして前を見るとガイさんが困ったように笑っていた。

ジェイドがまたか、といった顔でこちらを見ている。



、どこまで意識がありましたか?」

「ええと・・・・・・イオン様が御疲れなので休憩をとることになって、それで大詠師と戦争の話の辺り、までだと思う」

「ガイの話は?」

「・・・・・・覚えていないわ」



きっと戦争の話から、また考えてしまったのだ。

どうもぼんやりしていていけない。

・・・・・・ジェイドが笑っていない。

薄笑いを浮かべていないジェイドは薄笑いを浮かべているときよりも怖い。



「しっかりして下さい」

「ご、ごめん・・・・・・」

「いいじゃないか旦那。彼女だって疲れているんだろう?」



ジェイドの薄笑いとは別の、優しい笑顔でガイさんは言った。

どこか懐かしい気がする――――――なんだろう、既視感?

前にもこんなことがあっただろうか。

・・・・・・分からない。



「俺はガイだ。簡単に言っちまうとルークの家の使用人さ」

「ああ、ファブレ公爵家の・・・・・・。私は、マルクト軍第三師団所属で大尉です」



言って、握手しようと手を伸ばすと、物凄い勢いで後ろへ退かれてしまった。

何故だろうと、再挑戦しようとして近付くとさらに後ろに退かれてしまう。

こうなればもう意地だ。

数回それを繰り返したところで、



、彼は女性恐怖症だそうです」



と言う、座っているイオン様の声が聞こえた。

イオン様が知っているということは、私が意識をどこかへ潜らせている間にそれが既に話題になっていたのだろう。

なぜ誰も止めてくれなかったの!?と思い、皆を見ると笑いを堪えるように顔を背けられた。

少し、酷すぎやしないかしら・・・・・・っ!



「ガイさん、貴方はルークを捜しに来たのですか?」



恥ずかしいので、なんとか皆の気をそこから逸らしたくて話題を振った。

ガイさんはファブレ公爵家の使用人なのだから、ルークを探しに来たのではないだろうか。



「旦那様から命じられてな。―――あ、、俺は呼び捨てで構わないよ―――ルークがマルクトの領土に消えてったのは分かってたから俺は陸づたいにケセドニアから、グランツ閣下は海を渡ってカイツールから捜索してたんだ」

「ヴァン師匠も捜してくれてるのか!

「・・・・・・兄さん」

「兄さん?兄さんって・・・・・・」

「ティアさんのお兄さん?」



グランツとは誰だろうか。

閣下と呼ぶからにはそれなりに地位ある人間なのだろう。

そんな人間がティアさんのお兄さん・・・・・・。

たしかティアさんはローレライ教団の人間だ。

ということはグランツ閣下とやらも教団内部の人間なのではないだろうか。

ガイはファブレ家の使用人だからルークを探すのは分かる。

でもなぜそのグランツ閣下もルークを探すのだろうか?



「やれやれ。ゆっくり話している暇はなくなったようですよ」



ジェイドの言葉に皆が話すのを止めた。

草むらに人間がいるのをすばやく確認し、イオン様を護るようにして全員が立ち上がった。

ワンテンポ、ルークが遅れるのが視界の端にちらりと映った。



「に、人間・・・・・・」



なにやら躊躇があるようで、彼は背中にある剣を抜こうか抜かないか迷っているようだった。

ライガ・クイーンと戦うのにすら躊躇したのだ、人を相手に剣を振るうのに躊躇するのは当たり前だろう。

けれどもそれでは相手に殺されてしまう。



「ルーク!下がって!あなたじゃ人は斬れないでしょう!」



ティアさんが叫んだ。

だがルークは動かない。

いや、動けないのだろう。

そうこうしている内に敵――――――オラクル兵がこちらに向かって突っ込んできた。



「魔神剣っ!」

「荒れ狂う流れよ―――スプラッシュ!」



先陣をガイが切り、その間に後方でジェイドがスプラッシュを唱える。

私はイオン様を護る為に、近付くオラクル兵を斬り払っていた。

ルークは恐々としながらガイと一緒に敵に斬りかかってはいるが、力が弱い。

危なっかしいルークを援助するように、ティアは譜歌を歌っている。

だが思ったよりも敵の数が多く、なかなか数が減らない。

向こうもそれは同じらしく、私の斜め前にいたオラクル兵が何かを取り出した。

まずい―――小さく舌打ちをした。

私の後ろから小さく詠唱する声がする。

どうやらイオン様がダアト式譜術を使おうとしているらしかった。

オラクル兵が『何か』を宙に放って投げる。

それは綺麗な弧を描いてこちらへ向かってきた。

イオン様が狙われている。

ナイフを投げて――――――間に合わない!



「ぅっ、ああっ!!」

っ!」

っ?!」



落下地点からイオン様を突き飛ばしたが、私は逃げられなかった。

一瞬、頭上が光ったかと思うと、そこから糸みたいなものが放射される。

糸ではない、これも光だ。

封印術・・・・・・。

何かが体中を巡るような感覚がする。

苦しい、とても。

あまりの苦しさに地に膝を付いてしまった。

力が、上手く入らない・・・・・・。

イオン様を守らなくてはいけないのに。

ガキィンと音がして顔を上げると、ジェイドが私ごとイオン様を守ってくれていた。

助かった・・・・・・。



「ルーク、とどめを!」



ジェイドが叫ぶ。

滅多に叫ばない人なのに・・・・・・。

きっとルークはまだ躊躇しているのだろう。

私はまだ力が入らない。



「・・・・・・う・・・・・・」



ルークの呻き声。

続いて剣が弾き飛ばされる音がした。

ルークは――――――丸腰だ。

ここでルークに死なれるわけにはいかない。

彼を助けなきゃ――――――けれども私の身体は動かない。

ルークにオラクル兵が斬りかかる。



「ルーク!!」



誰かが叫んだ。

そしてルークの前に飛び出した。

茶色っぽい服が奇妙な鮮やかさを放っている。



「駄目っ、ティア!」

「――――――っ!」



奇妙だ。

マルクトとキムラスカの架け橋となるルークよりも、何故だか彼をかばおうとするティアの名を叫んでいた。

何も考えられなかった。

勝手に体が動いた。

私はティアを助けようと体を起こして、駆け出そうとしていた。

けれども結果として、私はティアがオラクル兵に傷付けられるのを、ただ呆然と見ていることしかできなかった。

なぜならジェイドに強く腕を引かれ、守られるようにして後ろへと引っ張られたからだ。

そのままジェイドとガイがオラクル兵を攻撃し、兵の体を貫いた。

どうやら、その兵が最後の兵だったらしく、見ると辺りは血溜りになっていた。