「おやまぁ、嬢ちゃんにカーティス大佐じゃないですか!それに確か・・・・・・ルークだったかい、旅の人」

「ローズさん、『嬢ちゃん』はちょっと・・・・・・」

「はは、まだ『嬢ちゃん』って呼ばせてとくれ」

「・・・・・・『嬢ちゃん』?」



ローズ夫人の言葉に、皆が不思議そうにこちらを見る。

視線が痛い。



「・・・・・・ま、いいや。おばさん、わりいけど馬車にかくまってくれねぇか?」

「セントビナーへ入りたいのですが、導師イオンを狙う不逞の輩が街の入り口を見張っているのです。
ご協力いただけませんか」



ルークの言葉に説明を付け足したガイが、口添えしようと近付いたティアさんに驚く。

どうやら本当に女嫌いというか、恐怖症らしい。

さて、これからどうするべきか・・・・・・。





Chapter.1 - Act.13 追い出された天才





今朝の出発時、ルークは決意した。

『俺も責任を背負う』

そう言ったルークの目は確かに真剣ではあったが、少し様子を見なければならない。

いくら決意したからといって、一日やそこらで人を殺すことへの恐怖を克服できるとは思わないからだ。



「なあ、。セントビナーに着いたけど?」

「ああ、約束?」



ルークに話し掛けられ、そういえばそんな約束をしていたなと思い出す。

だが、その話をするのはここよりも適した場所がある、と思うのだが・・・・・・どうだろうか。



「とりあえずアニスと落ち合いましょう?彼女、基地に来ているはずよ」

「あ、そうだった。アニスはここにいるんだっけ?」

「ええ、そういう約束です―――生きていればね」

「イヤなこと言う奴だな・・・・・・」



話していると聞きなれない『ナタリア姫』という、恐らく人名が耳に入った。

どうやらルークと関係があるらしい。

ルークを『尻にしいている』ティアさんは年頃の少女らしくムッとして、ガイに腕を絡めた。

嫌がらせだ。

当然、ガイは女性恐怖症なので周囲に助けを求めてはいるが、
誰一人として助けようとするものはいない。

イオン様は何か微笑ましいものを見るように、優しく目を細め、微笑んでいる。

ルークはわけが分からない、なぜそこで『ナタリア姫』が出てくるんだという感じの表情をしている。

ジェイドに至っては完璧に保護者兼傍観者といった顔で、
二人の様子を「若いですねー」などと言っている。

イオン様はどうか知らないが、ジェイドは、
ティアさんがルークに対して他のメンバーとは少し違った反応を示すことに気がついているはずだ。

そして、だからこそ二人を止めない。

私はというと、乙女の神経を逆撫でしたガイの自業自得だと思った。



「この旅で、ガイの女性恐怖症も克服できるかもしれませんね」

「かもしれません」



イオン様がにっこりとした。




















街に入ってすぐに見慣れたマルクト軍基地が見えた。



「!お嬢さん!」

「な、なんだぁ?!」



ベースの前にいた一人の兵士がお辞儀をする。

慌てて隣にいたもう一人の兵士もお辞儀する。

ジェイドとイオン様以外の三人も驚いているようだった。

そう、これこそがルークに説明するべき内容なのであったりする。



「マクガヴァン元元帥がお待ちです!」

「ありがとう」



ビシッと敬礼した兵にお礼を言うと、ルーク達はますます驚く。

できればもう少しだけ説明を先延ばしにしたい。



「なんなんだよ、一体」



勝手知ったるマルクト軍基地。

何も言わずに足を進めると、後ろでルーク達がひそひそと言うのが聞こえる。

別に気にはならないが、どちらかというとこの後が思いやられるのだ。



「失礼します」

「おお、!おかえり」

「父上、お元気そうで何よりです」

「え・・・・・・?」



帰宅を示す挨拶に対しルークを始めティアさんにガイまでもが、
私と父上―――老マクガヴァンを見比べる。

父上は気にも留めないで話を続けた。



「それにジェイド坊やか!」

「ご無沙汰しています。マクガヴァン元帥」



今度はジェイドに視線が集まった。



「わしはもう退役したんじゃ、そんな風に呼んでくれるな。
お前さんこそそろそろ昇進を受け入れたらどうかね、
本当ならその若さで大将にまでなっているだろうに」

「どうでしょう、大佐で十分身に余ると思っていますが」

、お前もだ。お前のところにも昇進の話は十分来とる」

「父上、私にはまだまだ彼の元で学ぶべきことが山とあります」

「・・・・・・ふむ、仕方あるまいのう」



後ろで「ジェイドとって偉かったのか?」「そうみたいだな」などという、
中々失礼な会話が聞こえてくる。

だが彼らがそう思うのは普段の私達の行動のせいなので、なんとも言えない。



「カーティス大佐、妹から離れて貰いたいのですが」

「おや、マクガヴァン将軍。これはこれは失礼しました」



兄上―――グレン・マクガヴァンが不機嫌そうにジェイドに言う。

兄上は大変優しくて好きなのだが、これではシスコンのようにしか思えない。

一応、私も『恥ずかしい』という感情を持ち合わせているので、困った兄としか言い様がない。

だがさらに困ったことに、兄上はジェイドとは仲が大変よろしくない。

ただでさえ、喧嘩腰でいる兄上を面白がってジェイドが絡むからだ。

今もこうしてジェイドは謝ってはいるが、私から離れようとはしない。

兄上を怒らせるのは嫌なので私自らが離れようとしたのだが、
がっちりジェイドに腰に手を回されていて、離れることができなかった。

兄上はますます不機嫌になっていく。

なんとかして話を逸らすことはできないだろうか?



「あ、ルーク!約束していたから説明するわね!」

「ああ、そうだった」

「改めて自己紹介するわ、本名は・マクガヴァン。
ええっと、そこにいるのが父で、あそこにいるのが兄のグレン!」

「かなり歳が離れてねーか?」

「そ、そう?いいじゃないの、それくらい!・・・・・・兄上、自己紹介してください!」



その後、兄上は渋々と皆に挨拶をしてくれた。

・・・・・・ジェイドを睨みつけたままだけども。

父上達に聞くところによると、アニスはもうここにはいなく、
次の合流地点であるカイツールへ向かったそうだ。

アニスからの手紙を兄上から受け取ると、殆どルークへのラブレターだった。

けれども親書とアニスが無事であることがはっきりと示されていたので、そのことに皆が安堵した。

これで手に入れるべき情報は手に入れた。

外に出ると少し向こう側の空が赤くなり始めていた。

それでもまだ明るい。

できることならそのままアニスを追いかけたいところなのだが、
イオン様がかなり消耗いているので今日は宿屋に泊まることになった。



「すみません、みなさん」

「いいんですよ、イオン様。・・・・・・あっ。えと、ごめん。みんなだけで先に宿屋に行っててくれる?」

「どうしたんだよ?」

「ちょっとね。久しぶりに帰ってきたことだし、色々と」

「分かったわ。行きましょう」



みんなとは反対方向に歩き出す。

父上にこの封印術について聞かなければならない。

あの場で聞いてもよかったのだが、どうも兄上の機嫌が限界に近いようなので、
ジェイドから引き離したほうが良さそうだったのだ。



「おお、やはり戻ってきたか」



どうやら何となく私が戻ってくることを予期していたらしい。

私が戻ってきたことに驚きはない。



「父上、少しお聞きしたいことが」

「なんじゃ?」

「『封印術』」



父上の目が僅かばかり見開かれた。

兄上がガタンっと椅子から立ち上がり、私と目が合った。



「・・・・・・ほう」

、何があった?」

「それが―――」



オラクル兵によって受けたこと、普通の封印術とは違うこと、
そしてその封印術がジェイドのものと合わせて二つ目のものであるなどと言うことを話した。



「ついに、完成したのか・・・・・・」

「どういうことですか?」

「・・・・・・もともと封印術は相手のフォンスロットを強制的に鍵をかけて閉じるものだ。
だが、お前にかけられた封印術は鍵の解除が無効化される」

「ええ、そのようです。すぐにまた施錠されてしまう・・・・・・」



通常の封印術ならば、譜術に優れた者であれば時間さえかければ解除可能だ。

幸い、私は譜術に関してジェイドの足を引っ張らない程度の能力はある。

前回の解除成功によって、普通のものならば解除の手応えがはっきりと分かるはずなのだ。

だが、それが一切ない。



「心して聞け、

「はい、父上」

「結論として言おう。その封印術はほぼ永久的に解けないだろう」

「・・・・・・え?」

「どういうことですか、父上!」



『ほぼ永久的』

その言葉に兄上が強く父上に聞き返してくれた。

ありがたい。

私は言葉が出なかった。



「少し昔のことだ、一人の譜業研究者がマルクト軍にいた。彼は天才だった」

「・・・・・・いた・・・・・・ということは、今はいない?」

「ああそうじゃ、彼は半ば追い出されるような形で軍を辞めおった。
彼の研究していた題材が軍で扱えなくなったからだ、その技術が禁忌とされたためにな。
―――話を戻そう。その男が昔、軍で研究していたものの一つがその封印術だ。
しかしこれは、あまりに法外な研究費用及び開発費用がかかる為に研究中止となった。
譜術を永遠に封じるという効果は素晴らしいが、そこまでに辿り着かなかった」



そんな人物がマルクト軍にいたなど一切知らなかった。

それに、もしもそんな封印術がマルクト軍で完成してしまったら戦争になっていただろう。

・・・・・・いや、そもそもいつ頃の話なのかが分からないが。



「つまりその男は今、オラクルにいるということですか?」

「ああそうじゃ。『死神ディスト』としてな。オラクル内で完成させたのだろう」



・・・・・・六神将か。

厄介な人間が集まった集団だ。



「どうしても解けそうにありませんか?」

「すまんがわしには分からん。
・・・・・・しかし、あるいは内側からなら・・・・・・いや、なんでもない。少し調べておこう」

「父上、可愛い妹の為です。私も手伝います」

「ありがとうございます、父上、兄上」



兄上が私に歩みより、ゆっくりと頭を撫でてくださった。

その様子がジェイドに似ていると言ったら怒るだろうか?



「気をつけるんじゃぞ、

「そうだぞ、。カーティス大佐にあまり近付かないようにな」

「え、ええ・・・・・・」



知らない人にも着いていくんじゃないぞ!などという兄上の声が、閉じた扉の向こうから聞こえてくる。



「私は一体いくつの子なんですか・・・・・・!」



必死で笑いを堪えている門番の兵士を睨みつけながら呟いた。