私はきっと、ルークに嘘を吐いた。





Chapter.1 - Act.14 本当の答えは心の中





基地―いや、家を出て宿屋へ向おうとしたが、すぐ目の前の広場にルークが一人でいた。

どうやら私を待っていたのだろう。

私の姿を認識すると、偶然を装うかのように話し掛けてきた。

なんだか一生懸命だったので、乗せられておこうと思う。



「すげーのな、の兄貴」

「否定はしない、かな?」



街の道なりに沿って二人でゆっくりと歩く。

道の所々で小さな子供達が楽しそうにする姿が見える。

なかには私と顔見知りの子が何人かいて、私に元気よく挨拶をしてくれる。

―――何気ない、当り障りの無い会話が続いたのはソイルの木の上に登ったところまでだった。

木の上まで子供達の声や街の活気は聞こえてこない、静かだ。

・・・・・・そして、やや間があって、ルークがやっと本音であろう言葉を口にした。



「・・・・・・あのさ、そろそろ教えてくれねぇか?」

「ああ、『なぜか』ね」



ルークがこちらを見る。

けれども私は、手元の父上によって書かれた観測結果のボードを見ていた。



「先に、二つ目の質問の回答からね。『軍人になった理由』」

「ああ」

「一番大きな理由は軍系の家庭だからだわ。父は元帥、兄は少将 ―今は大将、将軍ね― 、マクガヴァン家は一応軍の名家ということになっているの。だから私も士官学校に入って軍人になった」

「人を、殺すのが仕事なのにか?」



少し不快そうな顔をしてルークが私に問う。

無理もないだろう。

一般人から見れば軍人は人殺しだと思うだろう。

・・・・・・悲しいことに、特に貴族階級の人間はそう思っているのか、軍人を忌み嫌う。



「・・・・・・ううん、ルーク。それは少し語弊があるわね」



たしかに最終的には人を殺すのが仕事かもしれない。

だが、それは少し違うのだと私は思っている。

・・・・・・違って欲しいと思っている。




「・・・・・・どういうことだ?」

「少なくとも私は違うわ、ルーク。確かに私は人を殺しているし、周囲に流されて軍人になったかもしれない。でも人を殺すために軍人になったわけじゃない」

「じゃあなんだよ?!なんで人殺せんだよ?!」



今朝の決意は何だったのかと聞きたくなるくらいに、ルークが感情的になる。

私も感情的になってしまえばいいかもしれない。

だがそれでは意味がない。

きっとルークは人を殺すのに正当な理由を欲している。

悪い意味ではなく、ただ純粋に不安なのだ。

ただ自分が死ぬのが嫌だからという理由だけではなく、誰もが仕方なかったんだよと言ってくれるような正当な理由が欲しいのだ。

・・・・・・あの頃の私と同じだ。

死ぬのが嫌だというのは、決して自己中心的ではないだろう。

また、正当な理由があれば人を殺していいってものではない。

だが理由や信念の名の元でなければ大抵の人間は潰れてしまう。

人を殺すのを怖れることは、人の命を奪うことに罪悪を感じているということであり、忘れてはならない感情だ。

正当な理由を掲げて、己の気がつかないところで理由に責任を押し付ける人間の末路をたくさん見た。

私自身がそうではないとは言い切れないし、ルークが決してその中の一人にならないとも言い切れない。

だからこれは賭けだ。

呑まれるか、取り込むか。

一つの例をルークの前に挙げて、少しでも彼なりに考えてくれればいい。

人を殺すことについて自らをはっきりと納得させて、信念とすればいい。

きっと私はルークの進む道や信念に口出しはしないだろう。

私はルークの親でも教官でもないし、彼自身が決めることだからだ。



「ルーク、それは一つ目の質問の答えだわ」



自らの声に、力が少し篭ったのを感じた。

今から彼に向かって言うことは、何よりも陳腐な言い訳だ。

そして偽善だ。

その言葉の裏には犠牲が伴っていることがそれを証明している。

それでも私はこう答えるしかない。

ルークのために、なにより私のためにも。



「大切な人を、みんな守るためだわ」



そうであってくれと、それが理由であってくれと私自身が思う。

反応はどうだろうと思い、手元から視線を外しルークを見たが、上手く感情は読み取れなかった。



「・・・・・・ふーん。そっか、お前はそうなんだな?」



彼はこれからどうするのだろう?

少しでも考えてくれるだろうか?



「ええ、少なくとも私はそうだから。ルークはルークの理由を見つければいいわ」



随分と勝手だなと自分自身を嘲った。