『大変だっただろう?』



確かに私はその声を聞いた。





Chapter.1 - Act.16 偶然のような登場





「へー、ここがカイツールねぇ」



ルークがそれとなく周囲を見回し、なんもねぇなと感想を述べた。



「まだここはマルクト側の国境の砦だけれどもね」



見慣れたマルクト軍の蒼い紋章のあしらわれた門を見ながら説明した。



「・・・・・・なんか、ピリピリしてんな」

「近くにアクゼリュス鉱山がありますからね。マルクト、キムラスカの両国の争いの種ですから」

「そうだぞ、ルーク。大抵のものはアクゼリュスの資源で作られてる」



ジェイドに続き、ガイが説明するとルークはうんざりした様子でへいへいと聞き流した。

何でもかんでも説明するなと言いたげに、歩みを速めた。

門をくぐり、視界に検問所が入る。

アニスはどこにいると探す必要もなかった。



「あれ、アニスじゃない?」



どうやら彼女は検問に引っ掛かったらしく、何やら兵士に懇願しているようだった。

―――そう言えば、ここを通るのには旅券が必要だったはずだ。

はぐれたアニスが持っているわけがない。



「証明書も旅券も無くしちゃったんですぅ。通してくださいよぉ」



お願いしますよぅと身をくねらせる。

きっとアニスなりのお願いポーズなのだ。

しかし、兵は随分と優秀らしく、きっぱりとそれを跳ねつけた。



「規則ですから」



そうだ、軍人は規則に縛られているのだ。

そういうものだ。

アニスは諦めたのか、項垂れてくるりとこちらへ踵を返した。

私達にはまだ気が付いていないらしい。

もう一度懇願するように兵士を上目遣いで見上げたが、首を横に振られてしまう。

そこから急にアニスの動きが変わった。

なんとも男らしく、バッと再びこちらへ踵を返し、低くボソリと呟いた。



「・・・・・・月夜ばかりと思うなよ」



見事な舌打ち付きだ。

アニスの素が出た。

どうやらそれが聞こえたらしく、ルークとガイは身を凍らせた。

世の中、知らない方が幸せなことも多くある。



「アニース、ルークに聞こえちゃいますよ?」

「あ?・・・・・・きゃわーん、アニスの王子様ぁv」



ジェイドの声に、やっと私達の存在に気が付いたアニスが一瞬にして猫被り、ルークに駈け寄った。

その時彼女が、ちらりとイオン様を見て安否を確認した気がした。



「ルーク様ぁ!ご無事で何よりですぅ、アニス、心配してましたぁv」

「お、おう」



ほとんど突進するような形でルークに抱きつくと、ガイは再び身を凍らせた。

何かをボソリと言ったが、聞こえなかったことにしておく。

なぜなら私も女であるからだ。



「アニス、大丈夫だった?」

「あ、ー!会いたかったよぅ」



ぱっとルークから離れて、今度は私に突進してきた。

倒れそうにもなるが、なんとか踏ん張って堪えた。



「みんな心配していたのよ」

「ええ、もう少しで心配するところでしたよ?親書が無くては話になりませんですから」

「ジェイドったら意地悪ねぇ」

「嫌ねぇー、。元々ですよ」

「それもそうだったわね」

「ぶー」



アニスが頬を膨らませ、可愛らしく身体を左右に振る。

頭を撫でてあげると嬉しそうにした。



「タルタロスから墜落したんだって?大丈夫かよ?」

「そうなんです、アニスちょっと怖かった・・・・・・」



アニスは再びルークに突進をかました。



「『ヤロー、てめー、ぶっ殺す!』って悲鳴上げてましたものね」



うんうんと感慨深そうにイオン様が言った。



「イオン様は黙ってて下さいっ!―――ルーク様、ちゃんと親書は守りましたよ!褒めて褒めてv」

「あ、ああ、偉いなアニス」



アニスと親書が無事に戻ってきた。

とりあえず、アニスはガイの存在を知らないので、二人は自己紹介をし合った。

ガイはやはりアニスも女として駄目なようで、終始引け腰だったが。



「ところで大佐、どうやって検問所を超えますか?私とルークは旅券も証明書もありません」



そうですねぇ、ジェイドがそう答えると思ったその瞬間、声が降ってきた。



「ここで死ぬやつに、そんなもんいらねぇよ!」



声のした方 ――― 門の上を見上げると何かが、誰かが飛び降りてきた。

私は咄嗟にナイフを取り出し、イオン様を守ろうとした。

しかし予想に反して、その人物はイオン様を狙ってはこなかった。

あれは・・・・・・。

黒を基調とした、赤い紋章があしらわれた法衣姿。

オラクルの兵の中には彼と同じ物を着ている人間を、私は見たことが無い。

ただ一人その人物は、六神将・鮮血のアッシュだ。

赤く長い髪が宙を舞う。

ルークと同じ、髪。



「ルーク!」



ティアが悲鳴を上げた。

ルークは咄嗟にアッシュの攻撃を転げながら避けたが、次の動作に遅れが生じた。

間に合わない、武器である剣を取り出すのにも間に合わない。

アッシュが剣を地面から引き抜き、斬りかかる。



「どういうつもりだアッシュ!私はお前にこんな命令を下した憶えはない!退け!」



声が、した。

コマ送りのようにして、その声の持ち主の姿が目に映った。

ガイでもジェイドでも、ティアでもアニスでもない。

知らない男が二人の間を割って入り、ガキィンっと剣と剣がぶつかり合う。

高い金属音が鳴り響いた。

アッシュはいらただしげに舌打ちすると、男の言葉通り跳び退り、身を翻してこの場から消えた。

兵達がどたばたとアッシュを追って行ったが、とても追いつけそうにはないと思った。



「師匠!」

「ルーク、今の避け方は無様だったな」

「ちぇー」



起き上がりながら、嬉しそうにルークが言った。

ルークと男の間にはどこか親しげな様子がある。

使用人であるガイが止めないのだ、危険な人物ではないのだろう。

それにしても、どこかで見たことがあるような・・・・・・。



「ヴァン!」



忌々しげな声に振り返ると、ティアが投擲用のナイフを構えていた。

一体何が・・・・・・。

それにしても―――。



「ヴァン・・・・・・?」



そう、彼のフルネームはヴァン・グランツ。

六神将・オラクルを纏め上げる主席総長だ。

彼の活躍は六神将に隠れがちではあるが、その功績は目を見張るものがある。

それ故、何度か名を耳にしたことがある。



「ティア、武器を降ろしなさい。お前は誤解をしているのだ」

「誤解・・・・・・?」

「頭を冷やせ。私の話を聞く気になったら宿まで来るがいい」



なんとも言えない、張り詰めた空気が場を支配する。

本当に、二人の間に一体何があったというのだ?

ヴァンはくるりと身を翻し、宿屋へ向かって行った。

その様子を見ながら、ティアが迷うようにして歯を食い縛るのが分かる。

何があったかかは知らないが、余程のことがあるに違いない。

ルークがヴァンにお礼を言うのを聞きながら、そう思った